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フラの整備も遅れている4。ただし最近、こうした批判に対する有力な再批判が提出された。労働市場による調整や適地適産の原理が有効に働くことによって、地域格差の拡大は最小限に抑えられており、ゆえに研究開発投資の重点を条件の厳しい地域(雑穀・根茎類など)の農業研究に移す方向は賢明ではないとする見解である5。しかし筆者は、第1に労働市場の調整がしばしば移動する人々にとって苦渋に満ちたものであること、第2に「緑の革命」の素通りした地域でそれを補う有利な経済活動(畑作物の生産・加工や農村工業)が生じるそのメカニズムが十分に明らかでないこと、の2点を検討課題として提出しておきたい。後者の問題は、土地なし層の所得改善に決定的役割を演ずる農外就業機会の創出メカニズムについて、労働供給サイドの「生存圧力」を重視する仮説6に対し、「緑の革命」の前方・後方連関効果や最終需要効果が地域内で農外就業機会を生み出すとする仮説を対時させるものである。
最後に土地制度と農業生産力の関連について若干述べておきたい。土地所有権の不平等な分配が大経営や小作経営を広範に成立せしめている場合、かかる土地制度が農業生産力の開花を妨げる要因であるか否かという問題である。南アジアの農地貸借市場は、東アジアと異なり、農地を最も経営効率の高い規模帯に配分調整する機能が弱く、したがって非効率な大経営や小作経営を多く残存させている(表4)7。また土地改革の先進地である西ベンガル州では、分益小作農の保護措置が小作人の生産意欲を刺激した証拠もある8。土地改革は、成功裡に行われれば、所得分配を改善するのみならず、生産力増進にも効果があるとみておくべきではなかろうか。中国では人民公社解体=家族経営復活が農民の生産意欲を全面開放したわけであるが、これは農民のインセンティブ体系がいかに重要かを示す証拠である。インド・ビバール州やパキスタン・シンド州など、「封建的」大経営や小作経営が数多く残存する地域で、土地改革が全く必要ないと主張することはできないであろう。
3) 貧困軽減のための諸政策
以上、農村開発戦略上の農業の重要性を強調したが、土地なし雑業層が農村世帯の40〜50%にも達する南アジアの状況(表4)を前提にすれば、また農業開発が土地なし層よりも地主層により直接的利益をもたらすものであることを考慮すれば、土地な

 

 

 

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